なんとなく思い出したこと

なんとなくだけど、僕は、季節の変化というものに疎い気がする。

それがカッコいいと思って冬でも短パンを履いていた小学生時代はさて置くとしても、季節というものに対する印象が「夏、暑いなぁ」「冬、寒いなぁ」くらいのもので、なんだかぼんやりしている。基本的に部屋にこもって空調を効かせているのと、植物や星の名前に詳しくないからだろうな、たぶん。

とはいえ桜を見ると春を感じてしまうので、あれが持つエネルギーはすごい。「桜の下には屍体が埋まっている」なんて言葉もあるが、そう考えてしまうくらいの、なんというか、象徴としての存在感がある。

あれは確か一昨年の春だったと思うのだけど、当時勤めていた職場の人に誘われ、仕事終わりに夜桜を見に行った。目黒川だった。

夜とはいえ相当な人出で、多くの見物客と多くの屋台があった。僕らは他の見物客に流されながら、ベルトコンベアに運ばれるみたいに川沿いの道を進んだ。なんとなく、僕の思っていたお花見とは違う催しなんだなと思った。

僕も一緒に行った人も流されるままになんとなく一周すると疲れてしまい、高架下のおでん屋さんによって帰った。川沿いの道を歩いて少し冷えた身体に、鶏の出汁が効いたおでんは美味しかった。

そういえばあの日は頼もうとした何かが品切れで、その「何か」を次は食べようと約束したような気がする。なんだっただろうか。

僕が職場を離れてお互い連絡を取ることもなくなったので、たぶんあの約束が果たされることはないだろうけど、あのお店にはもう一度行ってみたいな。

桜の季節には無理だとしても、寒くなるころには行けますように。