エピローグ

10時間もあればなんでもできるような気がしていたけれど、終わってみると全然足りない。ボードゲームで優勝し、見事『五反田のプロポーズ王』となった友人が優勝賞品のケーキを食べているなか他のみんなで撤収作業を進めているのが、慌ただしくも名残惜しさを可視化しているみたいでなんとなく面白かった。

その日は、友人と7人で新年会だった。昼の12時から夜の10時まで合計10時間、マンションの一室にあるレンタルルームを借りての集まりだ。

本当はその10時間でライブBDを見て、鍋をして、ライブグッズのお好み焼き(!)を作って食べて、ゲームをして遊ぶ予定だった。結果 鍋とお好み焼きはできたものの、ゲームはまだまだし足りないし、今回メインのはずだったライブBDは全く再生されずに終わった。「暗くなったら使おうね」と話していたBD用のプロジェクターは、結局最初に使い方を把握するために少し動かしただけだった。

台所に立つひとが入れ替わり立ち替わり作業をし、余った飲み物やお菓子、たくさん出たゴミ袋を持ち帰るひとが決まって部屋を出るころには、退室予定時刻の10時を少し過ぎていた。

エレベーターと階段に分かれて1階に降り、レンタルルームの鍵を元あった郵便受けに返す。その時、入室時にはどうしても見つけられなかった1階入り口のオートロック用のカードキーを見つけて面白くなった。僕も友人も何をどうしても見つからなかったから、マンションの住人の後ろにこっそりついて入ったのに。

みんなでそれぞれゴミ袋を持って列を作り、駅までの短い距離を歩く。次の約束もしたりして、いい気分だ。

と、1人の友人がさっと列を飛びだし反対側の歩道に走り、カメラを構える。僕もカメラの先に目を向けると協賛看板があったので、なるほどなと楽しくなる。そういえば、ちょっと前まで『協賛看板』なんて呼び方すら知らなかった。

時間の感覚がなかったので正直まったく正確ではないと思うんだけど、たぶん、5分もしないうちに駅に面した大通りに着いた。信号を渡ればもう駅だ。

道の端っこ、建物の陰に寄って精算をする。幹事をやってくれた友人や諸々の買い物をしてくれた友人から使った金額を聞いて人数で割ると、だいたい1人ライブ1回分くらいの支払いだった。

「細かいのがないから」とコンビニに行った友人を待ちながら、なんかこういう時間って良いなぁと思う。ライブ会場でも、終演後、なるべく遅くまで席に残っていたいタイプなのだ。

精算も終わり、帰ろうかと歩き始める。やっぱり名残惜しい。

ひとりが別の駅から帰るということで、その友人だけ信号を渡らずに右に折れる。去り際に投げキッスをする友人を見て、「投げキッスってどうやって受け取るんだろう?」「私はこうやった」とか話しながら信号待ちをする。

それほど長いあいだ待っていたわけでもないのに、信号が青に変わる前に、別の駅に向かったはずの友人が帰ってきた。短いお別れだった。なんでも駅への入り口が閉まっていたらしい。

「だったら電気くらい消しといてほしいよねー」なんて話しながらみんなで同じ駅まで行く。そこで今度こそ別れた。

電車でそれぞれの乗換駅に向かいながら話をした。何を話したかあんまりちゃんと覚えていないんだけど、千葉に帰る友人が持ち帰ってくれている鍋用のネギが千葉県産だということに気がついて、なんとなく面白かったことは覚えている。

みんなが降りていって、僕ともうひとりだけが残った。席が空いたので、2人で並んで座る。

最初は「最近よく会うよね」なんて話をしていたんだけどどうにも眠たかったらしく「降りるときに起こしてほしい」と頼まれた。念のため「僕が寝ていなければ」と返す。

目を閉じた友人が、右手から落ちそうになるゴミ袋をたぶん無意識に握り直すのを見て、寝ているあいだくらい代わりに持ってれば良かったなぁと思った。でも、起こすのもそれはそれで悪いので声もかけずにぼーっとする。

僕が降りる駅まで着いたので約束通り友人を起こし、そこで別れた。

ついにひとりになって、最寄駅まで向かう電車に乗り換える。

最寄駅に着き、駅から出ると、雪が降っていた。いやその時は雪のような気がしたけれど、いま思えばみぞれかもしれない。木の葉に当たる音が少し重たかったので、たぶんただの雨ではないと思う。

傘も持っていないのに楽しくなって、なんとなく浮かんだ曲をメドレーでくちずさみながら家まで歩いた。